概説
上腕骨内側上果炎は通常労作性損傷として引き起こされ、上腕骨内側上顆及び周辺の軟部組織の痛みを訴えます。中国の伝統的な概念として本疾患は学生に多いと考えられ、通称「学生肘」と呼ばれますが、実は学生の患者はそれほど多くないのです。日本では「ゴルフ肘」とも呼ばれています。
解剖
全ての屈筋腱と円回内筋は内側上顆に付着します(右図参照)。上腕骨内側上顆後方に溝(尺骨神経溝)があり、ここを尺骨神経が通ります。
病因病理
急性牽引と蓄積性の疲労により内側上顆の部位で屈筋腱と円回内筋腱の起始部に断裂、出血、滲出が起こります。長期にわたり書字をしていると内側上顆に圧がかかり、当該部位の虚血が起こり、修復過程の中で瘢痕、癒着が発生し、筋腱が痙縮し、頑固な疼痛となります。尺骨神経を圧迫することで疼痛が生じることもあります。
臨床表現
肘内側の痛みは時に軽く、時に増悪します。急性発症時、患側の肘関節屈曲、前腕回内すると疼痛が増悪します。肘関節の活動が制限され、日常生活に影響を与えます。
診断の根拠
1.多くが青壮年で既往歴で肘の損傷や肘の慢性疲労疾患がある。
2.内側上顆の疼痛及び圧痛がある。時に内側上顆の辺りで大豆くらいの硬結が触れられる。
3.肘関節屈曲、前腕回内に力を入れると、疼痛が増悪する。
治療理論
針刀医学の慢性軟部組織損傷理論によると、上腕骨内側上顆の筋腱付着部が損傷すると、癒着、瘢痕、痙縮を引き起こし、肘内側端の動態平衡失調をきたし、上記の臨床表現を産生します。慢性期の急性発病時に病変組織の水腫から滲出した液体が末梢神経を刺激して、上記の臨床表現を増悪させます。上記の理論によると上腕骨内側上顆炎は内側上顆に付着する屈筋腱と円回内筋が原因で慢性軟部組織損傷を引き起こします。針刀を用いてこの付着部の癒着を解消し、瘢痕を削り、肘内側の動態平衡失調を回復させ、この疾病は根治に至ります。
針刀治療
肘関節内側の圧痛点が即ち刺針部位です。刃先のラインと屈筋腱の走行は平行にして針体と刺入部位、骨平面は垂直に刺入し、尺骨神経を傷つけないよう注意し、骨まで刺入し、まず縦に剥離し、次に横へ剝離します。もし瘢痕や結節があったら切開剥離します。
おわりに
上記は針刀治療の解説で、内側上顆付近を治療のターゲットにするという説明でした。一般的な鍼で治療する場合は内側上顆だけでなく、どの筋が問題なのか、どの位置が問題かなどを触診で確認して筋腹にも刺鍼するというやり方で治療するのが基本になるかと思います。解剖図で分かるように、多くの筋肉が隣り合い走行しています。
大まかに判断する基準として掌を上向きにして母指頭と小指頭をくっつける動作をすると、手首の真ん中に腱が浮いてきます。これが長掌筋です。これを基準にここより内側の筋が問題か外側の筋なのか絞ることが出来ます。触診に不慣れな人は試してみてはいかがでしょうか。一般的な毫鍼でもかなりのケースで著効します。
参考文献:
森 於莵 他,分担解剖学,金原出版:1982
朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002