概説
項靭帯の損傷の大半は頚部を屈曲して(顔を下に向けて)仕事をする人に蓄積性の損傷として発症します。急性外傷で発症することは比較的少ないです。
解剖
項靭帯は頚椎の棘突起から起こり、外後頭隆起と外後頭稜に停止する三角形の弾力線維膜です(図1)。両側には頭部からの筋肉、頚部からの筋肉が付着します。その主な作用は頚部の過度な屈曲、頭部の左右回旋を制御することです。その他の筋肉が作用する元で頚部を後屈する時に項靭帯は牽引され労作性の損傷を受けやすく、X線検査では項靭帯にカルシウム化した部分が確認できます。
病因病理
頚部の過度な屈曲、大きく頚部屈曲した仰臥位、或いは頚部屈曲位で持続した作業にて項靭帯の疲労と損傷が起こりやすいです。
項靭帯損傷で良く見られるのは下部頚椎の付着部で後頭隆起下縁の付着部と項靭帯両側の筋付着部と第7頚椎の付着部位です。持続的で反復した牽引性の損傷でよくこの部位の靭帯が変性、硬化、カルシウム化が出現します。母指で触診すると弾発音がみられることが多いです。急性の暴力損傷では項靭帯の断裂や変性が見られることもあります。
臨床表現
長時間、下向きの仕事をしていると後頚部のコリ、張り、痛みを訴え重度の場合、頭を挙げられない、不眠などの症状があります。
診断の根拠
1.項部の不快な疼痛がある
2.長期の下を向いた作業を行っている
3.高い枕で睡眠をとっている、或いは頚部の過度な屈曲、回旋動作による外傷歴がある
4.項靭帯分布領域の付着部で圧痛点がある
5.頚部の最大屈曲・伸展で頚部の疼痛が増悪する
治療理論
慢性軟部組織損傷の理論による針刀医学に基づくと、項靭帯損傷後に瘢痕と痙縮を引き起こし、頚部の動態平衡失調を作り出し、上記に挙げた症状を発生させます。慢性期で急性に症状がある時は重度な水腫、滲出があり、神経抹消を圧迫し症状が増悪します。上述した理論によると項靭帯損傷部位の多くはその両側の付着部位にあります。ゆえに針刀を使いその両端の付着部の癒着を解消させ、瘢痕を剥離させれば頚部の動態平衡は回復し、この病は根治できるでしょう。
治療
患者に頚部屈曲するよう指示して、圧痛点を確認します。圧痛点が頚部の棘突起に有ったら、針刀の刃のラインを棘突起頂点のラインと平行にして針体と頚部平面が90度になるよう刺入し、頚椎棘突起上まで刺入します。切開剥離を1,2刀行った後、横方向に削ります。圧痛点が外後頭隆起下縁にあった場合、針刀の向きは変えずに針体と後頭骨下縁の平面に対し垂直に刺入します(さもないと第1頚椎付近、環椎後頭関節に刺入することになり、脊髄神経を損傷する危険がある)。先に切開剥離を行い、その後横方向の削りを2回行います。
仮に疼痛が消失しても5日後にもう一度治療します。
おわりに
以上、針刀医学による治療法の解説でした。国内の整形外科関係や鍼灸関係の文献で「項靭帯損傷」という項目をそもそも見かけたことがありません。まずこういう病態があることが分かっただけでも価値があり、更に評価法や治療ポイントが分かっていると早期から精度の高い治療を行うことが出来ます。下向きで仕事をする人、高い枕を使う人に多いということは、生活指導も重要になります。
参考文献:朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002