歴史背景
中医学を中心とする東洋医学は奥深く、悠久の歴史の流れがあります。独自の完全な体系があり、東洋の人々の健康に大きな役割を果たしてきました。しかし、東洋文化の背景下で生まれたことから、西洋医学とは明らかに異なる考え方を有しています。それは抽象的思想の産物です。
東洋医学の創立は二千年前で、即ち中国では春秋戦国時代で、これは諸子百家論争の時代でもあります。諸子百家論争の結果、需家の学説(儒教)が最終的に勝利を収め、儒教が東洋文化の主流となりました。儒教の創始者である孔子の一門の著作に「周易大专」「十翼」などがあり、東洋文化の巨大な体系を形成したのです。この文化体系の中心は人文哲学であり東洋哲学です。東洋哲学の思想モデルは抽象思想で、抽象思想の方法は一貫して東洋哲学であり、例えば、東洋哲学では、あらゆる物の属性を陰と陽の2つの側面に抽象化し、あらゆる物の関係を金、木、水、火、土と5つの異なる物質属性の間の関係を加えて総括しています。世界の万物の成り立ちを数の概念で表現します。例えば易に太極あり、これ両儀を生じ、両儀は四象を生じ、四象は八卦(はっけ)を生ず、これらは一種の巨大な抽象思想の様式なのです。
河図を用い※洛书はこのような抽象的な数字を、深化させ表現し、一匹の陰陽魚が構成する太極図に上記の占術理論を加え、このように世界のあらゆる物の生成と自然科学の制度、変化がすべて含まれているのです。これはとてつもなく巨大な抽象理論です。この抽象的な思想方法は東洋文化のあらゆる面をほぼ一貫しており、それゆえ、抽象的思想のモデル東洋文化体系の形成に決定的な影響を与えました。東洋医学の代表である中医学は、この種の抽象思想の文化圏内で形成されました。中医学の経典である「黄帝内経」が作られた年代は、すなわち東洋文化体系が形成された時代であり、それゆえ、東洋医学の代表である中医学は抽象的思想モデルの産物と言われることもあります。中医学の※理、法、方、薬などすべて体現できる抽象思想であることが特徴です。
※洛书:古代、禹が洛水を治めていた時、神亀の背に負っていたという文
※理、法、方、薬:理とは弁証分析を通じて疾病の本質を探り当て、発病のメカニズムに基づき、証に対する治療法則を確定すること。次に、法に従って方を選択し、方を根拠に薬が用いられる、これらの四者の相互関係は不可分であること。
現状
二十世紀の今日、世界中で普及している西洋医学は難題に直面しており、人類はその活路を求めて伝統医学に目を向けました。東洋医学に活路を見出す時、伝統医学には科学的論述が欠落していることが分かり、その全ての内容は見当をつけることが出来ない抽象的な記述です。例えば中医学で病因に対する記述は「全ての疾病は3つの大きな病因に分けられ内因、外因、不内外因であり、内因は七情(怒、喜、憂、思、悲、恐、驚)で外因は六淫の邪を指し風、寒、暑、湿、燥、火をいいます。不内外因は飲食、労倦、打撲傷をいいます。病理に関して述べる時、こちらもまた抽象的な記述となります。例えば、風邪、眩暈は肝に属し、湿邪が滞留した浮腫は脾に属し…「肝胃不和」「心腎不交」などです。診断をする時も抽象的で、例えば八綱弁証、即ち陰陽、表裏、寒熱、虚実、臓腑弁証などです。治療方法もまた抽象的で、例えば「琉肝理気」「補土生金」などです。薬理においても抽象的で例えば「四気五味」「寒熱湿平」などがあります。
現代科学が中医学のこのような抽象的な概念を理解するのは非常に難しく、更に説明する手段がありません。例えば風が病因になり、その風は人体の中でどのように存在するのか?寒が病因となり、寒は人体内でどのような形態で存在しているのか?おおむね、知識が無ければ理解する方法がありません。その上、”風邪、眩暈は肝に属する”この意味は各種の眩暈性疾病の根源が肝臓或いは肝経にあるということですが、現代科学ではその根拠を説明する手段がありません。例えば、陰陽、この抽象的な表現は「琉肝理気」の類のように現代科学で理解するのはとても難しく、気及び呼吸系統がどのように肝臓と連絡を取れるのでしょうか?薬理分野で用いられる「四気五味」もまた一種の抽象化です。
中医学は随所に抽象的で不正確な記述があり、現代社会で理解することが困難であるため、現代人が伝統的な中医学に活路を求める時、中医学はあまり科学的ではないと感じてしまうようです。民間の経験医学の一種なので、医学、科学の表舞台に出すことは出来ず、実はこれは大きな誤解があるのです。中医学自体には深刻な科学の内包を有していますが、時代背景の影響を受け、科学的な方法で書き加えた研究や論述がありません。そのため、中医の現代化、現代の科学理論を用いた研究や論述を広く深く行うことは、医学、科学の表舞台に上がるに当たり、必ずやらなければならないことなのです。
可能性
中医は十分な現代化が出来るでしょうか?その答えは肯定的です。伝統的な中医学が数千年に渡り受け継がれてきた理由は、優れた臨床効果があり、独自の完全な理論体系、つまりそれ自体が科学的であるからです。ただ、私たちの祖先がこの学術を創立した時、抽象的思想方法を加えて総括したものを使い、中医学は曖昧な分野として影を落としました。そのことで現代の科学ととても大きな距離が生まれ、同時に二千年前の人類は今日のような目覚ましい科学の成果を想像していなかったので、中医学として手本となる方法は無いのです。
従って、東洋医学の代表である中医学は現代科学の知識を高め、研究、論述することが喫緊の課題です。この一点は完全に出来ることです。
現実性
1960年代以降、中国の医学専門家は、伝統的な中医学の化学成分の研究、活血化瘀理論の研究、臓器機能理論の研究、針灸穴位解剖の研究、中医学での骨折治療の現代化研究などがあり、どれも成功しました。これらの研究の成果は中医学の完全な現代化に良い礎となり、中医基礎理論の現代化は研究の道を切り開きます。中医現代化研究に関する針刀医学はこのような基礎の上に始まり、たとえ針刀医学にどんな創造性、突破する業績が有ろうと、専門家たちが中医の現代化の道を開拓するのは必然的な結果なのです。
結論
針刀医学の主な内容の一つは、中医学の現代化であり、かつ基礎理論分野から現代化させることです。上記の文章から分かることは、中医現代化の研究に関する針刀医学は、筆者のひらめきではなく、歴史的な要求であり、時代的に必然なことで、中医の現代化は筆者の空想ではなく、客観的な条件は基礎を作ります。すなわち、針刀医学は中医現代化の研究に関して、この歴史の必然的な動向の背景があり、また十分な可能性があり、現実的な条件下で始める必要があります。
参考文献:朱汉章,针刀医学原理,人民卫生出版社:2002