1979年、国際疼痛研究会(ISAP)は疼痛に対して科学的な定義を提案しました。「疼痛は既存の又は潜在的な組織損傷に関連する不快な感覚的及び感情的経験です。痛みは多くの場合主観的です。誰もが人生の早い時期に損傷の経験を通じて疼痛の正確な語彙を表現することを学びます。それは間違いなく体の局所的な状態または全体的な感情であり、不快な感情でもあります。
痛みは身体を危害から守る原始的な感覚であり、身体の損傷に対する警告として機能し、身体に一連の防御反応を引き起こします。人間の皮膚には1㎠あたり約200個の痛覚受容器が存在しており、外部からの有害な刺激によって人体がダメージを受けると、皮膚の痛覚受容器が即座に痛みの情報を収集し、それが中枢神経に伝達され、中枢神経系が反応することで有効な防御が行われ、即座に条件反射が形成され、様々な障害を回避または軽減することができます。人体の一部の軟部組織に労作損傷的病変が発生すると、病変部位に無菌炎症が形成されることが多く、無菌炎症による化学的、物理的要因の変化により、軟部組織内部の侵害受容器に対して刺激が発生して疼痛感覚が出現します。
疼痛がやって来るのに反して疼痛部位の筋肉の痙攣や収縮は、無菌性炎症の程度を増悪させ、傷害受容器周囲の化学的、物理的要素の変化を加速させ、疼痛は更に増悪し、この時医者はこのような悪循環を断ち切り、患者の苦痛を軽減させなければいけません。
痛みは病気をタイムリーに反映し、痛みの診断にも役立ちます。疼痛は病気の警告シグナルである一方で、痛みは多くの重要な病気の医学的診断に不可欠な根拠でもあります。もちろん、相当多くの病気があり、最初は痛みを感じず、身体に警報が届かず、例えば悪性腫瘍初期の患者は痛みを感じること無く、疼痛発生時には多くの腫瘍疾患は相当進行した状態で、臨床上では1/4の患者が痛みを主症状として治療を求めており、鍼灸の患者の中では痛みを伴って来院する割合はとても高いです。痛みの研究は鍼灸医療従事者にとって重要な意義があり、臨床上、痛みの原因は数多くあります。
主な原因は4つあります。
①末梢神経自体の損傷によって引き起こされる病理的緊張、例えば灼熱性神経痛の主なものは、神経周囲の損傷で局部に神経腫や癒着異物炎症を形成し、往々にして感覚神経或いは交感神経を刺激して、この刺激が引き起こす病理性の緊張は絶え間なく各神経の中枢に伝わり、その結果、大脳皮質、視床、脊髄側角の感覚野が過剰な興奮状態になり、患側肢に灼熱痛を引き起こします。
②組織の損傷、虚血、炎症により細胞が損傷され、発痛物質が放出されます。組織の虚血や炎症は、細胞壊死や細胞の損傷を引き起こす可能性があり、それによりカリウムイオン、水素イオン、ヒスタミン、ヒドロキシトリプタン、ブラジキニンなどの疼痛原因物質が放出されます。これらの物質は自由神経終末を刺激し、痛みの信号を生成し、脊髄を通り中枢に伝わり痛みを引き起こします。痛みは、中枢神経系の多くの部分における包括的な活動の結果であり、例えば炎症では、炎症組織の血管壁の透過性増加と、血漿とフィブリンの漏出により、局所的な充血、浮腫、内圧の増加、緊張、癒着が生じます。感覚神経末端は浸出液による腫脹の圧迫や癒着が刺激となり、痛みが生じ、更に炎症組織の酸素消費量が増加し、組織の水素イオン濃度が上昇し、細胞の膨張や脱水、変性を引き起こし、細胞壊死溶解現象を引き起こします。
炎症反応が明白であればあるほど、組織アシドーシスはより深刻であり、この時組織内の濃度が増加し、炎症と腫れが増悪し、その結果、局所的な血液循環に影響を及ぼし、組織の栄養障害が起こり、組織細胞変性、壊死が促進され、発痛物質を放出し、感覚神経終末が興奮して痛みが生じます。
③科学的刺激と物理的刺激です。酸やアルカリなどの化学的刺激、及び寒冷、電流などの物理的刺激などは一種の侵害刺激になる可能性があります。この侵害刺激は感覚神経を通って脊髄に伝わり、脊髄視床側から大脳皮質の中心後回の感覚野に伝わり、疼痛が発生します。この侵害刺激は、大脳皮質に伝わる際に、脊髄レベルで近くの運動神経と交感神経の興奮を引き起こします。これらの神経の興奮が痛みとなって局所的な刺激が伝わり、運動神経の興奮により筋肉の緊張が高まり、交感神経の興奮により血管が収縮します。その結果、痛みを伴う局所の血流が低下し、酸素の供給が不足し、局所の虚血や低酸素が引き起こされ、発痛性物質が生成され、この発痛物質が新たな痛み刺激となり、感覚神経を介して痛みを増強させます。
このように悪循環が形成され、痛みは徐々に悪化し、難治性の痛みを引き起こします。
④末梢神経の機械的刺激は組織の浮腫を引き起こし、局所的な張力を増大させ、感覚神経末端に腫れによる圧迫、刺激を受け、痛みを引き起こす可能性があります。
また、痺れと痛みは互いに補い合う対の症状ではありません。通常の神経圧迫では、痛みではなく痺れの症状のみが生じます。痛みは炎症反応の刺激により引き起こされる症状です。慢性炎症の場合、神経線維が受容器の働きを負う可能性があります。この時、神経への圧力や科学的刺激により、神経支配区域の痛みが生じると同時に、太い線維は触電感を引き起こし、細い線維は痛みを生じます。
西洋医学における痛みの上記の理解は、神経周囲の病変、組織損傷、虚血、炎症、化学的物理的刺激、機械的刺激による痛みの性質を分析していますが、全体的な筋道は中国医学の痛みとよく似ています。血行障害により代謝産物と炎症性物質の排泄、発生障害が起こり、代謝産物と炎症性物質の排泄障害が逆に組織への刺激を促進させ、疼痛が増悪します。この悪循環が更に痛みを増悪させます。これは中医の理論では、気血の動きに障害があることは概ね一致しており、方法は異なりますが同じ目的なのです。
参考文献:胡超伟,超微针刀疗法,湖北科学技术出版社:2014