概説
坐骨結節滑液包炎は別名を大殿筋坐骨結節滑液包炎、大殿筋坐骨滑膜包腫といい、大殿筋坐骨包の慢性炎症病変を指します。痩せて長時間座る仕事をする中高年齢者に多く、特に高齢女性で、長時間硬い腰かけに座る者は発症しやすいです。発病の原因の多くは臀部が反復して長時間圧迫を受けることで、大殿筋坐骨包が繰り返し刺激され、その結果、充血、水腫、滲出、変性、増殖などの病理変化が出現します。この疾患は子供に発症することもあり、挫傷により坐骨結節の慢性炎症を引き起こします。
解剖
坐骨
坐骨は寛骨の後下部に位置し、坐骨体と坐骨上枝、坐骨下枝に分けられます。
坐骨体:坐骨上部の肥厚した部分で、寛骨臼の後下部を構成します。坐骨体には3つの側面があり、内側面は小骨盤の側壁の一部を構成し、外側面は外閉鎖筋が付着し、後面は股関節包が付着します。
坐骨上枝:坐骨体下方の部分は坐骨上枝といい、その前縁は薄く、閉鎖孔の後部境界を構成します。坐骨上枝の下端は坐骨下枝に移行します。
坐骨下枝:坐骨上枝の下端から前上内方に向かった部分を坐骨下枝といいます。その上縁は薄く、閉鎖孔の下方境界を構成します。坐骨下枝の前端は恥骨下枝に移行します。坐骨上下枝は相互に移行した後部は、骨質が粗で肥厚し、坐骨結節といいます。坐骨結節には以下の筋肉が付着します。結節上部は横行する骨陵により、上下に分けられ、上部には半膜様筋が付着し、下部には大腿二頭筋と半腱様筋が付着し、結節の下部に大内転筋が付着します。結節の上縁に下双子筋が付着します。結節の内側縁には仙結節靭帯が付着します。結節の外側縁には大腿方形筋が付着します。

大殿筋坐骨包

大殿筋坐骨包は坐骨結節滑液包ともいい、その位置は坐骨結節と大殿筋の間で、柔らかい結合組織が分化して完成します。密閉された結合組織で扁平な包を呈しています。その内壁は滑膜で、包内には少量の滑液があり、座っている時に滑膜への刺激を軽減します。人が座位姿勢をとる時、坐骨結節は主な荷重部位で、荷重は坐骨結節を通り、座面に作用します。従って、坐骨結節と体表の間にある組織層は、坐骨の損傷を防止するための緩衝構造で、坐骨の保護装置といえます。大殿筋坐骨包の外側には、もう一つの大きな滑液包があり、大腿二頭筋滑液包があります。この滑液包は大腿二頭筋腱が坐骨結節に付着する部位の表面にあり、大殿筋坐骨包に隣接しています。解剖学的にみると、大殿筋坐骨包の深部は坐骨結節で、大腿二頭筋法の深部には大腿二頭筋腱があります。
病因・病理
坐骨結節滑液包炎は急性と慢性があり、慢性滑液包炎がよくみられます。
慢性の坐骨結節滑液包炎と職業には関係があり、長時間硬い座面の椅子、痩せた体型の患者、特に高齢女性に多く見られます。臀部の脂肪が薄いため、座位では体重が坐骨結節を通じて硬い物に作用し、圧迫と刺激を引き起こします。長期の反復した刺激は滑膜包に炎症(水腫、滲出、増殖)を引き起こし、滑液の分泌は増え、長期に渡る浸出液の滞留は滑液包の増大、膿腫の形成を引き起こします。鏡視下で滑膜壁は明らかに厚く見え、セルロースからの滲出物が包内壁の粗な面に付き、包腔は1つか複数で、液体が充満しています。組織学的変化は、包壁表面上皮の過形成、絨毛突起を呈することもあり、徐々に線維組織の瘢痕は過度となり、あらゆる包壁線維組織が増殖し、包内壁には、線維蛋白凝集物が付着します。
急性の坐骨結節滑液包炎は通常臀部の挫傷により引き起こされ、殿部に直接硬い物(地面など)がぶつかり、坐骨結節の硬い骨質が損傷し、大殿筋坐骨包は包内が出血し、急性期の包内水腫は血性で、急性期の後水腫は黄色になり、慢性期は粘液となり、包内壁の滑膜は肥厚し、滑膜細胞の分泌は活性化し、代謝は乱れ、受傷した組織は保護性の変化を妨げ、炎症性の滲出が起こり、包腫を形成します。
臨床表現
・症状
座位で下臀部の不快感や疼痛。疼痛は限局性です。
・所見
局部に腫れや圧痛を確認
患者は四つ這いで臀部を突き出した格好で、検査者は坐骨結節の部位で、はっきりと楕円形の塊と坐骨結節の凝着を触知でき、部位は深く、境界は不明瞭で、まれに実質性の腫瘍と間違えることがあります。圧すると疼痛があります。
大殿筋坐骨包緊張試験が陽性
方法:患者は仰臥位で、大腿を屈曲或いは体幹を前屈すると臀部に疼痛が生じます。
原理:大腿を屈曲、又は体幹を前屈すると大殿筋坐骨包が牽引され緊張し、刺激が加わるため疼痛が出現します。
治療法
まず触診して坐骨結節の位置を特定します。
坐骨結節へは長さ75~100mmの鍼を使用して、9本の鍼を垂直方向に鍼を入れて、坐骨結節に当たった所で停めます(図参照)。
坐骨結節の内側に圧痛がある、又は痛みを訴えている場合は、坐骨結節の内側を擦るように鍼を入れ、得気があったらその位置で鍼を停めます。坐骨結節の内側は大内転筋が付着しているので、大腿部の内転筋群も同時に鍼を入れていきます。
深く入れすぎると、効果が悪くなるので、適切な深さで鍼を停めることがポイントです。

参考文献:李石良,针刀应用解剖与临床,中国中医药出版社:2014.p633-641
浅野周,中国鍼入門,三和書籍:2021,p154-155