軟部組織損傷の概説で述べたことを通じて、皆さんは軟部組織損傷のタイプが多種多様なことが実感できたのではないでしょうか。簡潔に各項目に分けて説明していきます。
まず、私たちは損傷の概念をはっきりさせないといけません。損傷とは人体組織が異なる程度で破壊、破裂、断裂、変形、壊死、循環閉塞、身体欠損を受けたものをいいます。生体に発生するこれらの変化のタイプはおよそ11種類あります。
- 1.暴力損傷
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人体が外からぶつかる、衝突する、詰めこまれる、圧力をかけられる、引っ張られる等により引き起こされる損傷です。
- 2.蓄積性損傷
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人体が受ける一種のより軽微で持続性で反復する牽引、圧迫により引き起こされる損傷です。この種の損傷は長時間の蓄積を経て、人体の自己代償能力を超え一種の蓄積性損傷となります。
- 3.感情性損傷
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感情が度を超えた興奮をすることで血管の膨張を引き起こし、筋肉が強く収縮や痙攣し血管壁を損傷し筋線維が断裂します。あるいは感情の度を超えた抑制は人体内の体液(血液含む)の循環が緩慢になり、ある部位で滞留、梗塞を引き起こします。それらの器官は膨張し損傷を引き起こします。いずれも圧迫された付近の器官で損傷の蔓延が起こります。
- 4.隠蔽性損傷
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この種の損傷の大部分は患者に気づかれません。例えば何回か娯楽で活動中、或いは偶然の転倒、叩かれる、ぶつかるということで発生した損傷は、その当時痛みを感じても気にもとめません。しばらくすると痛みに気づきます。患者は往々にして損傷をなおざりにするので、容易に他の疾患に誤診されてしまいます。
- 5.疲労性損傷
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これは人体の四肢・体幹又は内臓器官に長時間度を超えた作業により引き起こされた損傷を指します。
仮に過度に脳を使うと大脳の関係がある部位の損傷を引き起こし、暴飲暴食は消化器系統(例えば肝臓、胃など)に関係がある器官に過剰な負荷や動作で引き起こされた損傷が発生します。長時間の激烈な体育活動は四肢、体幹、内臓に関する器官(心臓、肺など)過度の負荷、作業により引き起こされた損傷や、無理に重量物を持ち上げ運ぶことで引き起こされた損傷などは疲労性損傷に属します。 - 6.侵害性損傷
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これは喫煙(ベンゾピレン、ニコチン)、酒飲み(アルコール中毒を引き起こす)を指し、高血圧や血管の破裂をもたらすといった害を引き起こし、これらの有害物質は人体組織細胞の害であり、更に薬品、食品内の有毒成分、空気中の毒性物質も人体に対して引き起こす害となります。最終的に皆、人体軟部組織損傷を引き起こします。
- 7.人体自重性損傷
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これは人体の過度な肥満を指し、正常体重を大きく超え心臓の負荷を大きく高めるだけでなく、心筋損傷も引き起こします。かつ、本人が高体重であることで、それらの軟部組織器官が長期にわたり過負荷の状態に置かれ、損傷を引き起こします。
- 8.手術性損傷
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今のところ、外科手術で大量に展開したことで引き起こされた損傷を指します。外科手術は病を治すためですが、そのことで発生する損傷もまた避けられないのです。病を治す意義を除いて手術損傷は他と同じく一種の損傷なのです。
- 9.機能障害性損傷
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これは、ある種の疾病が人体に対して引き起こす障害により発生した損傷を指します。例えば、リウマチ関節炎は関節周囲の軟部組織の炎症反応、滲出、水腫、大量の細胞壊死、循環障害を引き起こします。皮膚潰瘍、吹出物、膿腫などが大量の細胞壊死を引き起こし、発生する損傷です。
- 10.環境性損傷
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これは気温が高い、極寒、超高温下での作業、火傷などで引き起こした損傷を指します。高温では血圧が高く血管が破裂する可能性があります。極寒では軟部組織の痙攣、攣縮(いずれも牽引性損傷の可能性もある)ならびに血流、体液の滞留、閉塞を引き起こします。火傷は組織の壊死、大量滲出、循環経路を塞ぎ止めることを引き起こします。
- 11.機能性損傷
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機能とは人体の神経系統がコントロール下にあることをいい、身体の要求に合わせて様々に機能します。では、どのように損傷が起こるのでしょうか?これは人体のある一つの神経支配の組織器官があるため神経機能異常(過興奮、過抑制)により、その支配する組織器官は正常の生理機能を発揮できなくなります。しかし、人体の生命活動は神経が正常の生理機能を発揮することを必要としているので、神経が本来の能力以上に活動しようとする時に損傷してしまうのです。もしコントロール下の心臓の交感神経の機能に異常が出現したら、心筋の正常な弛緩と収縮の指令を送ることが出来なくなります。しかし、心臓は完全な血液の拍出量を送るため、力を尽くさなければならないのです。このような時に心臓が損傷する、といった例があります。
上記のように人体の軟部組織損傷を引き起こす11種のタイプを列挙しました。暴力性損傷、疲労性損傷は軟部組織損傷の範囲として今まで研究され、残りはその他の疾病研究の中に置かれており、誤りを伝える訳にはいきません。これまで挙げた各様式の損傷は人体の軟部組織を破壊することに対する性質は全て同じであるので、更に重要なのはこれらの病理変化の過程がほとんど同じであり(細胞形態学の観点で)、かつこれらの損傷は急性期を過ぎた後、全てひとつの新しい疾病の病因要素を発生するのです。人体のどこが損傷しても人体の自己調節メカニズムはどこであっても作用して自己修復を行い、自己修復の過程で、特定の条件下で4つの大きな病理要素を発生するのです。その4つとは瘢痕、癒着、痙縮、閉塞(血管閉塞、軽微な循環閉塞、リンパ管閉塞、体液経路閉塞など)です。
これら新しい病理要素は新しい疾病を引き起こし、すなわち著者がよくいう慢性軟部組織損傷の疾病なのです。この病名は著者にとっても理解しがたいですが、これらの病気は皆慢性病で一般大衆が言う治らない、死ぬことはない病気なのです。しかし、著者が認識していたのは慢性軟部組織損傷疾病は全て運動系統である筋肉、靭帯、筋膜、腱鞘、滑膜、関節包などの軟部組織の慢性疾病です。著者は大多数の内臓器官の頑固な慢性病と運動系統の慢性軟部組織損傷が同じ病理要素を持つという客観的な認識がありませんでした。このため、今のところ多くの慢性軟部組織に属する内臓病は、なお本来の力を出せない状況に置かれています。当然、慢性軟部組織損傷の新しい病因病理学の理論が出現する前、著者は運動系統の慢性軟部組織損傷疾病に対しても無力であったのです。
著者が運動系統の慢性軟部組織損傷の病因病理を研究している時に、研究の中で予想以上の効果が得られ、やっと多くの重度な慢性内臓病の発症メカニズムと運動系統の慢性軟部組織損傷疾病が同じであることを発見したのです。このことで著者はこの類の慢性内臓病の根本的な活路を見出しました。
以上11種の軟部組織損傷のタイプを挙げましたが、それ自体に内臓の軟部組織損傷が含まれます。著者はこの類の内臓病の根本原因は軟部組織損傷後であることを明確に認識しました。自己修復過程の中で病理要素(瘢痕、癒着、閉塞、痙縮)が作り出されます。瘢痕、癒着、閉塞、痙縮については病理のカテゴリーで解説します。
参考文献:朱漢章:针刀医学原理,人民卫生出版社,2002