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大腿骨頭壊死の治療法

大腿骨頭壊死の治療法
目次

概説

 大腿骨頭壊死は、股関節損傷、関節の手術、関節リウマチ、過度の飲酒、長期のホルモン治療など様々な原因により引き起こされます。修復できない壊死の時、大腿骨頭の陥落は広がり、股関節の機能に大きな影響を与えます。

 この疾患の標準的な保存療法の多くは効果が良くありません。手術治療は侵襲が大きく、臨床で多くは大腿骨頭の陥落が起こってから手術の適応となります。この時、完全に元々の機能を回復し難く、そのため大腿骨頭壊死の治療は今なお解決し難い問題の一つなのです。針刀医療は力学的な角度から本疾患の病因病理の分析を始め、針刀術を通じて股関節の力学的平衡を調整し、良好な効果を得ました。

 股関節治療の基礎知識である「股関節の解剖」のページがありますので、合わせて読むと理解が深まります。

病因

 大腿骨頭壊死の病因は外傷性と非外傷性の2つに分けられます。今のところ明らかになっているのは、大腿骨頭壊死は異なる段階の病理変化がありますが、発病の根本的なメカニズムに対する知見は非常に少ないということです。大腿骨頭壊死が関係する要素は70余りあり、外傷性骨壊死以外は直接的に骨への血液供給が破壊され、骨細胞の虚血、酸欠が起こり、骨細胞は死に至ります。非外傷性骨壊死の病因は尚研究が待たれています。40種余りの要素が大腿骨頭の虚血性壊死を引き起こします。簡潔に、その重要度に基づき以下に列挙します。

1.外傷
 大腿骨頸部骨折、股関節の外傷性脱臼、大腿骨頸部骨折、脛骨粗面の骨折、股関節の手術、及び軽微な外傷などが大腿骨頭壊死を起こす可能性があります。明らかな転移のある大腿骨頸部骨折は大腿骨頭への血流が止まり、損傷して8時間後には壊死が始まります。例えば大腿骨頸部の転移が大腿骨頭の直径の1/2に達すると、供給する血流であるsuperior retinacular arteryが引き裂かれます。統計によると約80%の大腿骨頸部骨折は大腿骨頭の異なる程度の虚血を引き起こし、最終的に大腿骨頭が陥落する人は30%であることが分かっています。医原性外傷、強い力で行うあん摩、大腿骨頸骨切り術、滑膜切除術などもまた大腿骨頭壊死を引き起こします。股関節脱臼で骨壊死の発生率は4~10%といわれており、その発症、整復の遅延は外傷の程度に関係します。

2.ホルモン剤の長期大量使用、或いは乱用
 コルチコステロイドの使用は、大腿骨頭無菌性壊死の高い危険因子であり、中国では大腿骨頭壊死でよく見られる原因です。長期に大量使用したグルココルチコイドは体内の脂肪代謝が変わり、高脂血症、脂肪の分解、血中の遊離脂肪酸が増加し、それによって血管内皮が損傷し、コラーゲンが露出し、内因性血液凝固の過程で、血小板が集まり、血栓が形成されます。また、糖質コルチコイドにより酸化ストレス反応が起こり、内皮細胞のキサンチン酸化酵素の活性が高くなり、大腿骨頭の微小循環障害が発生し、大腿骨頭壊死が起こります。短期的な高容量ショック療法はさらに大きな危険性があり、発生原因は脂肪肝の脂肪塞栓、血管炎、脆弱な骨質の圧迫骨折、血液粘度の増加などが誘因となります。ホルモン剤使用により大腿骨頭壊死が発生するかどうかは、個体差が大きく一概にはいえません。

3.アルコール中毒
 今のところ、多くの学者は、様々な大腿骨頭壊死を引き起こす病因の中で、慢性アルコール中毒は一つの重要な要素と考えています。慢性アルコール中毒というのは、長期にわたる大量の飲酒をする人で、長期にわたる大量の飲酒でアルコールが体内に蓄積するという状態になり、血中脂肪が高く、異なる程度の肝機能障害が起こります。今のところ、一般的にはアルコール中毒性の大腿骨頭壊死とホルモン性の大腿骨頭壊死は同様であると考えられ、脂質の代謝異常の結果であり、アルコールが直接、大腿骨頭に作用しているわけではありません。

4.脂質代謝異常
 高脂血症、高粘稠血、脂肪肝など患者の血中脂肪は高くなり、血液粘稠度は高く、血流速度は低下します。脂肪肝と同時に脂質を整理する機能が低下し、脂肪塞栓が血中に流入し続け、最終的に脂肪塞栓は軟骨下の血管内に滞留し、軟骨下骨の壊死を引き起こします。

5.血液性及び血管性の疾患
 血液系の疾患が引き起こす大腿骨頭壊死は、今のところ、中国ではあまり見られません。中国以外の国の報道では中国より多く、その中には鎌状赤血球症や地中海貧血(サラセミア)、ゴーシェ病、血友病、腫瘍による栄養血管の圧迫など、概ね大腿骨頭壊死を引き起こす可能性があります。

6.減圧性疾患
 この類の骨壊死は高圧状態から大気圧の状態に回復して発生し、大気圧から低圧状態になった時も発生することがあります。例えば、高原で生活し、深海の潜水士や圧力船室内の作業員などでよく発生します。減圧性骨壊死は減圧病が骨関節系統の中でも遅発性合併症で、その発病率は高圧状況下の作業、圧力の量、減圧過程、圧力上昇速度、肥満の程度は関係しています。現代の加圧装置は完全に、厳格に減圧措置を行い、この発病率は明らかに減少しており、臨床で見かけることはほとんどありません。

7.腎機能低下、腎移植
 腎移植は慢性の腎機能障害に対する主な治療法です。しかし、生体の拒絶反応により、移植した腎臓が急性の排斥作用を伴い、腎機能を障害し、大量のホルモン剤治療が必要になります。

8.これらの疾患、或いは中毒
 慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、腎移植、慢性腎臓病、高尿酸血症、痛風、すい炎などの疾患、カドミウム、鉛、ヒ素、ガソリン、ベンゼンなどの中毒です。

病理

 大腿骨頭壊死の病理過程は、包括的に骨質の壊死、壊死骨の吸収と骨形成、大腿骨頭の再構築など一連の病理変化があり、4つの段階に分けられます。

1.初期
 滑膜炎症期で、関節包は腫脹し、滑膜の充血、水腫と関節液の滲出が多いですが、その滑液中に炎症性細胞は含まれていません。この時期は通常1~3週持続します。

2.虚血壊死期
 大腿骨の前外側の骨端が最も早く影響を受け、或いはあらゆる骨端が平均的に虚血に伴う壊死が発生します。この時、骨構造は基本的に正常を維持しますが、骨の窪みが多く、骨密度が低下し、骨梁は砕けてこま切れになるか圧縮した塊になり、骨髄腔は形の無いくずで充填されます。骨端の骨化は中心軟骨内の仮骨が一時的な抑制を受け、関節面の深層軟骨は滑液からの栄養により成長を続けます。X線写真上では骨端核が比較的小さく関節裂隙が広く写り、壊死した骨梁は破壊されることで、圧縮と新生骨が壊死した骨梁表面に沈殿し、その密度は高いです。同時にカルシウムが少ない柔らかい骨端は明らかに壊死した部分の密度が高くなります。この時期はおおよその形態と大腿骨頭の輪郭は明らかに変化し、壊死の期間は比較的長く、6~12か月となりますが、通常この時期に症状はありません。もしこの時期に血流が回復すれば病変は消退し、いかなる後遺症も残りません。

3.断片化、再生期
 壊死骨の刺激の元で、毛細血管と単核細胞が組成する組織は壊死部位に侵入し、壊死した骨梁の吸収に関わり、髄腔内で線維組織が形成されます。破骨細胞の多くは機能が活発になり、壊死した骨梁の吸収に関わります。豊富な骨細胞の活動が増強し、壊死した骨梁の間とその表面に正常な前駆性骨組織を形成します。X線所見では、砕けた外観で、それは舌のような血管組織を含む組織が侵入する結果に関係があります。はじめは新しい前駆性骨組織が形成する骨梁は比較的細く、それ以降は層板骨に変化します。この時期は壊死した部分の周囲の軟骨に明らかな変化は依然としてありません。しかし基底層の軟骨は遠位関節面の滑液の栄養が届かず、活性を失ってしまいます。この段階では、新しい骨質の強度は比較的低いですが、柔らかいという程ではありません。徐々に正常骨が造成、或いは応力を受ける状況により形状が変わります。Salter博士はこれを「生物可塑形」といいました。上記の過程は0~3年間の期間です。

4.癒合期
 新しく形成される骨梁は未成熟な層板骨で、線維は細く脆弱で未吸収の壊死した骨梁が圧縮した物と一緒に存在しやすいです。圧縮された部分の多くは限局性で、一部は大腿骨頭にあり、通常は前外側に位置し、股関節屈曲、外転位のX線所見でカップ状の欠損がみられます。正面のX線所見では明らかな関節包外の変化があります。あらゆる骨端核が影響を受ける中で、多くは同程度の変形が出現し、キノコのような外観です。最終的に大腿骨頭は明らかに増大し、寛骨臼を中心とする円形の大腿骨頭は、扁平状の大腿骨頭へ変形します。

 一部の学者は大腿骨頭・頸の変形は壊死期に軟骨下の骨折が起こり、 壊死骨の吸収と元の骨が入り混じり沈着し始め、同時に滑膜反応と筋肉の痙攣が発生し、続いて内転筋と腸腰筋の痙縮が起こり、大腿骨頭を前外側に脱臼させ、股関節の機能制限が起こると考えています。

 例えば大腿骨頭の応力が集中する部分は多くの応力に耐え、大腿骨頭は扁平か馬の鞍状に変化し、更に進むと大腿骨頭は前外側に亜脱臼することがあります。大腿骨頭の持続的な虚血だけでなく、骨端の虚血壊死を起こし。骨端板の虚血壊死は骨端板の早期閉鎖を引き起こします。その影響は下肢の縦方向の成長に及び、特に大腿骨頸の成長を抑制し、大転子の成長には影響がなく、結果的に大腿骨頸が短縮し、大転子は大腿骨頭頂点の水平ラインより飛び出ることもあります。この変形は機能障害では大腿骨頸の内反です。外転筋の活動は不利になり、股関節を屈曲した状態での歩容となり、機能性大腿骨頸内反と呼びます。

 様々なタイプの骨壊死があり、疾病の原因は異なり、病変の程度も差があります。しかし、基本的な病理変化は似ており、全ては血液循環障害の後に骨細胞が死亡し、続いて修復反応が出現し、壊死と修復が明瞭に分けられず、混ざりながら進行し、最終的に関節の荷重部位の陥落や継続的な骨関節炎となります。

臨床表現と診断の要点

 大腿骨頭壊死患者の臨床表現は往々にして隠されます。緩慢な発病過程の中で早期に診断しようとも、遅れてしまうことが多いです。このため、大腿骨頭壊死に対する疾病の知識は極めて重要です。異なる病因が引き起こす大腿骨頭壊死には異なる病歴があります。病歴を調べ、注意深く外傷歴を理解し、軽微な外傷でさえ重視しなければなりません。コルチコステロイドの病歴は、時に少ない量でさえ良くない結果を引き起こすこともあります。飲酒歴は一つの重要な項目で、毎日250ml、半年以上続いていたら脂肪肝や大腿骨頭壊死の可能性があります。患者と大腿骨頭壊死が関係する疾病は、例えば動脈硬化、貧血症、慢性関節リウマチ、強直性脊椎炎、痛風などです。また特殊な職業である高い高度のパイロット、潜水士、毒薬物を扱う職業などは注意しなければなりません。そして暴力による損傷歴を問い、外傷後の骨折や脱臼時の損傷のレベルや合併症の有無など、特に最初の解決する時間、次に回数と質に注意を払います。

(1)症状

1.疼痛
 外傷後に発生した人は、多くが外傷による疼痛が消失後、比較的長時間経過して疼痛が発生します。ホルモン剤の使用、或いはその他の疾病による人も外傷とだいたい同じです。疼痛の部位の多くは股関節周囲で、鼠経靭帯の中点の下外側が主で、大転子の上か臀部のこともあります。徐々に発生することもあれば、突然の痛みということもあります。疼痛は間欠性の時もあれば持続性の時もあります。どのような原因による骨壊死であろうと、それらの疼痛は開始時、活動後に多く、その後に夜間痛や休息痛が起こります。夜間痛や休息痛の多くは骨や関節包内圧が高くなる表現で、疼痛の性質もまただいたい同じで、開始時に多いのは筋肉のこわばりによる痛みや鈍痛などの不快感で、徐々に刺痛や夜間痛などの症状が発生します。

2.放散痛
 疼痛は鼠径部、殿部、外側への放散痛で、他には麻痺のような感覚が生じることもあります。比較的よく見られる特殊な症状は膝、膝内側の放散痛で、例えば原因がはっきりしない膝痛で、股関節に病気があるかはっきりしない時は、これを一つの注意するシグナルととらえなければなりません。

3.股関節のこわばり、活動制限
 早期に関節の屈伸は動作が緩慢になり、足を組んだ姿勢ができない人もいます。また患側の股関節外転、外旋に制限が生じ、あぐらをかくことが困難となります。末期には股関節の活動は極度に制限を受け、強直に至ります。

4.進行性短縮性跛行
 疼痛が引き起こす跛行は保護性反応で、大腿骨頭が陥落した人は患側が短縮した結果、末期には股関節の亜脱臼が生じます。早期に往々にして間欠性跛行が生じ、子供の表現は最も明らかです。両側罹患すると歩容はひょろひょろとして、歩行が難しくなります。

5.下肢の筋力低下
 道を歩くことや労作時、力が思うようにならない感覚が生じます。

6.しゃがみこみ、外転困難
 しゃがみこむ時に股関節の痛みを生じ、しゃがみこむ回数は徐々に減ります。下肢の外転距離は徐々に狭くなり、股関節の外転は極度に困難となり、最終的に外転機能が失われてしまいます。

(2)検査

1.圧痛
 早期には僅かに股関節の限局した圧痛があり、その圧痛点の多くは鼠径部の中央からやや下方、又は臀部、転子間線のやや内側です。

2.パトリックテスト

 一方の手で健側の上前腸骨棘を固定し(図の黄矢印)、患側の股関節を屈曲、外転、外旋させ、膝を屈曲し外果を健側の膝の上に乗せて、他方の手で膝内側部を下方に圧迫します(赤矢印)。

圧迫した時に股関節の痛みがあれば陽性です。

patrickテスト

3.アリス徴候

 患者を背臥位にして、両膝を屈曲して足は揃えて立て、足底は床の上に置きます。正常では両側の膝の高さは等しいですが、膝の高さに違いがあると陽性です。

4.トーマステスト

 患者を背臥位にして、一側ずつ膝を屈曲させて、大腿部を胸に近づけます。左右行い、大腿部を胸に近づけた反対側の下肢が屈曲すると陽性です。持ち上がった側の屈曲拘縮や腸腰筋の短縮が疑われます。

5.トレンデレンブルグ徴候

 いわゆる片足立ちテストです。患者は立位になり、検査者は後方から観察します。患者が患側の脚で片足立ちをして、片足立ちした反対側(持ち上げ側)の骨盤が下降したら陽性です。先天性、又は外傷性の股関節脱臼、大腿骨頸部骨折、運動麻痺、特に中殿筋の作用に影響を受け、麻痺性股関節脱臼で陽性となります。

6.オーバーテスト

 患者は患側が上の側臥位となり、股関節と膝関節は屈曲位とします。膝は90°程度屈曲し、腰椎の前弯は最小限にして検査者は骨盤を固定します。もう一方の手で踝を固定します。患者は股関節伸展位で外転し、検査者は踝に当てた手を離します。大腿筋膜張筋の短縮があると患側の内転が制限されるか、動きが円滑でなくなります。

7.股関節内転筋検査

 患者は側臥位にして、患側下肢を検査台に置きます(患測が下)。検査者は上側の股関節が外転25°程度になるように下肢を支えます。患者に上側の下肢に下側の下肢を付けるよう指示をして、検査者は下側の膝関節内側で抵抗をかけます。仰臥位でも可能で、患者が外転位から内転して筋腹に収縮があるか確認します。

針刀治療

 針刀医学は本疾患の認識に基づき、針刀を通じて破壊された大腿骨頭壊死の病理的枠組みを総合的に治療します。特に初期、中期の大腿骨頭壊死患者に対して良好な治療効果があります。初期の患者では、針刀で軟部組織を緩めることにより人工股関節置換術を逃れることが可能で、中期の患者では針刀術により人工股関節置換術を回避できるか、明らかに人工股関節置換術の時期を遅らせることが可能です。

 針刀治療は慢性軟部組織の病因病理学理論と病理的枠組みである網目理論に基づき、股関節周囲の軟部組織病変の鍵になる部位を緩め、整え、更に針刀を使う手段で、徹底的に病変の病理構成をほぐすことで、治療目標が達成されるのです。

1.股関節前側の関節包と内転筋起始部の癒着、瘢痕を解消する方法
(1)体位:背臥位
(2)体表の位置:股関節前側関節包、内転筋起始部

股関節前側の治療点

(3)針刀の操作
①腸骨大腿靭帯、股関節前側の関節包:股関節前側の関節穿刺部位に針を入れます。刃先のラインは下肢の縦軸に平行にして、針体と皮膚は直角で、皮膚、皮下組織を貫き、刃先で堅いゴム様の感触があった時、それは腸骨大腿靭帯の中部です。縦に2回剥離し、範囲は1cm以内にします。そこから下へ針を進めると目標物から外れた感触があり、そこが関節腔です。2回切開し、範囲は1cm以内とします。

②恥骨筋起始部:恥骨上枝の恥骨筋起始部から針を入れます。刃先のラインは下肢の縦軸に平行にして、針体は皮膚と直角にして、皮膚、皮下組織を貫くと恥骨筋起始部に到達します。骨面上を上下左右に2回剥離し、範囲は0.5cm以内とします。

③長内転筋起始部:恥骨結節から針を入れ、刃先のラインと下肢の縦軸は平行にして、針体と皮膚は直角にして、皮膚、皮下組織を貫き恥骨下枝へ向かい針を進め、刃先でゴム様の感触がある部位が長内転筋の起始部で、上下に2回剥離し、範囲は0.5cm以内とします。

④短内転筋、薄筋の起始部:恥骨結節の外下方1cmの部位に針を入れます。刃先と下肢軸は平行にして、針体と皮膚は直角にして、皮膚、皮下組織を貫き、恥骨下枝に沿って、外下方へ針を進め、刃先に堅いゴム様の感触がある部位が短内転筋、薄筋の起始部です。骨面を上下に2回剥離し、範囲は0.5cm以内とします。

2.股関節後外側の関節包、大腿二頭筋起始部の癒着、瘢痕
(1)体位:側臥位、腹臥位
(2)体表の位置:股関節前側の関節包、内転筋起始部

(3)針刀の操作
①股関節外側の関節包:股関節外側の関節穿刺部位に針を入れます。刃先のラインは下肢と平行で、針体と皮膚は130°の角度で、大腿骨頸に沿わせて直角方向に針を進め、皮膚、皮下組織を貫くと大転子尖に到達します。2回切開し、切開した部分が中殿筋停止部です。そして針を戻し、針体を上に向け、大腿骨と直角の角度を成し、再び下へ針を進めると、目標から外れた感触がある部位が関節腔です。2回切開し、範囲は1cm以内とします。

②股関節後面の関節包:大腿骨大転子平面で大腿骨後面に沿わせて針を入れます。針体と皮膚は130°の角度で、大腿骨頸に沿わせて直角方向に針を進め、皮膚、皮下組織を貫き、大腿骨頸に接しながら進めると、目標から外れた感触があり、その部位が関節腔です。2回切開を行い、範囲は1cm以内とします。

股関節後外側面の治療点

③大腿二頭筋、半腱様筋の起始部:股関節を90°屈曲し、坐骨結節に針を入れます。針先のラインと下肢の縦軸は平行にして、針体と皮膚は直角にして、皮膚、皮下組織を貫くと、坐骨結節の骨面、大内転筋の起始部に到達します。上下に2回剥離し、範囲は1cm以内とします。そして針を後上方へ向け、堅いゴム様の感触がある部位が大腿二頭筋、半腱様筋の起始部で、上下に2回剥離し、範囲は1cm以内とします。

④大内転筋の起始部:股関節屈曲90°で坐骨結節に針を入れます。針先のラインと下肢の縦軸は平行にして、針体と皮膚は直角にして、皮膚、皮下組織を貫くと、坐骨結節骨面の大内転筋の起始部に到達します。上下に2回剥離し、範囲は1cm以内とします。そして針を後上方へ向け、堅いゴム様の感触がある部位が大腿二頭筋、半腱様筋の起始部で、上下に2回剥離し、範囲は1cm以内とします。

3.大殿筋、中殿筋、縫工筋起始部の癒着、瘢痕
(1)体位:側臥位
(2)体表の位置:腸骨稜と腸骨翼の接する領域

(3)針刀の操作
①大殿筋起始部後面:後殿筋線の後部にある大殿筋起始部を確認します。針先のラインと大殿筋の筋線維方向を一致させて、皮膚、皮下組織を貫くと、腸骨翼骨面に到達します。下方向に2回剥離し、範囲は1cmとします。

②大殿筋起始部前面:①の部位から前方3cmの部分で、針刀操作は①と同様です。

③中殿筋起始部後面:腸骨稜最高点から後方に5cmの位置です。刃先のラインと中殿筋の筋線維方向は一致して、皮膚、皮下組織を貫くと、腸骨翼骨面に到達し、刃先を90°滑らせ、下方向へ2,3回剥離し、範囲は1cmです。

④中殿筋起始中部:腸骨稜最高点の後方3cmの部位です。刃先のラインと中殿筋の筋線維方向は一致して、皮膚、皮下組織を貫くと、腸骨翼骨面に到達し、刃先を90°滑らせ、下方向へ2,3回剥離し、範囲は1cmです。

⑤中殿筋起始前部:腸骨稜最高点の位置です。刃先のラインと中殿筋の筋線維方向は一致して、皮膚、皮下組織を貫くと、腸骨翼骨面に到達し、刃先を90°滑らせ、下方向へ2,3回剥離し、範囲は1cmです。

⑥縫工筋起始部:上前腸骨棘の部位で縫工筋起始部の圧痛点を触診し、針先のラインは縫工筋の筋線維方向と一致し、針体と皮膚は直角に刺入します。起始部で針先を90°滑らせ、縫工筋の筋線維方向に対し垂直方向にして、骨面を内側へ2,3回、範囲は0.5cm以内とします。

縫工筋の治療点

4.大殿筋、中殿筋、縫工筋停止部の癒着と瘢痕
(1)体位:側臥位
(2)体表の位置:大腿骨大転子、脛骨近位内側

(3)針刀の操作
①中殿筋停止部:大転子尖部の位置で、針先のラインは下肢の縦軸と一致し、皮膚、皮下組織を貫くと大転子尖の骨面に届きます。骨面に沿わせて2,3回剥離し、範囲は1cmです。

②大殿筋停止部:大腿骨の殿筋粗面の位置で、針先のラインは腸脛靭帯の走行と一致し、皮膚、皮下組織、腸脛靭帯を貫くと大腿骨の骨面に届きます。骨面に沿わせて2,3回剥離し、範囲は1cmです。

③縫工筋停止部:脛骨近位内側の位置で、針先のラインは下肢の縦軸と一致し、皮膚、皮下組織を貫くと脛骨内側骨面で、骨に沿わせて2,3回剥離し、範囲は1cmです。

大殿筋中殿筋停止部の治療点
縫工筋停止部の治療点

(4)注意事項
①股関節包後部を緩める時、必ず大腿骨頸に沿わせて刺入します。さもなければ坐骨神経を損傷する可能性があります。

②大腿骨頭壊死患者は下肢の耐荷重能力が低下しており、必然的に腰部の損傷も起こります。そのため、通常大腿骨頭壊死の患者は、概ね腰部の労作性損傷があり、針刀で股関節周囲の病変組織を緩める時、例えば脊柱側弯や腰部の整形外科テストで陽性だった問題点など、腰部のニーズに応える針刀治療を行ってこそ、股関節の力学的平衡を徹底的に正せるのです。

 針刀術後に手技治療を行います。手技は股関節を伸展、大腿を引き抜くよう牽引後(関節の回旋が入らないよう注意)、ベッド上で下肢の間欠牽引を6週間、牽引重量は30kg行うと、関節間隙が広がり血液循環が回復し、大腿骨頭の成長空間が生まれます。感染予防のために抗生物質を3日間服用し、柔筋散と生骨灵を3ヶ月内服します。

術後管理

1.日常生活の管理

 患者は湿気が多い、寒い条件下での仕事や生活を回避する必要があります。湿気が多いと皮膚呼吸の代謝が失調します。「寒」を性質で表すと「凝滞」で、血管が収縮し、局部組織の血液循環を滞らせ、増悪して壊死します。このため、周囲の環境は湿気を少なく、活動の維持、保温に注意しなければいけません。

 壊死骨の抗圧応力は低下するため、活動時に杖を使わなければいけません。このようにして壊死した大腿骨頭の更なる陥落を防ぎ、傾斜した骨盤を矯正でき、股関節の変形を正します。杖を使う時、杖は脇の下で支え、手で柄を握り、片側のみ使う時は、健側の腋窩で支え、患肢と同時に杖を振り出します。両側に杖を使う時は4点歩容法を採用します。歩くには、左杖→右足→右杖→左足という順です。階段の上りは健肢→患肢→両杖、階段の下りは両杖→患肢→健肢の順です。機能訓練を行うことは維持しますが、高強度や強度に幅のある運動は適しません。とりわけ、壊死治癒後に激しい力を使うことは最も良くないことで、循環障害を起こし、再び虚血性壊死が出現します。

2.飲食の管理

 無菌性大腿骨頭壊死患者の骨質中に含まれるカルシウム量は明らかに低く、このため、カルシウムが多く含まれる食べ物を摂取しなければいけません。合理的な飲食構成と栄養供給は無菌性大腿骨頭壊死の癒合に重要な補助作用となります。乳製品、牛乳、ヨーグルトなどに含まれるカルシウムは比較的多く、飲用時、ビタミンA,ビタミンDを加えると、カルシウムの吸収を促進します。この他に魚や海老なども良いカルシウムが含まれ、動物の骨髄が入ったスープもまた栄養補給に良いです。

3.精神的ケア

 この病気は長期にわたるため、股関節痛など往々にして患者の情緒に影響を与え、焦り、恐怖、怒りやすいなどといった表現として現れます。医者は熱心に患者と意思の疎通を図り、根気強く注意事項、この病気の予後と結果を丁寧に説明します。根気強く励まし、患者が楽観的な気分になるような治療を行います。

4.対処療法、管理

 針刀治療後、大腿を引っ張る手技を行います。臥床して下肢の牽引を6週間、重さ30kgで行います。こうすると股関節の関節腔が広がり、血液循環が回復し、大腿骨頭の成長する空間が生まれます。牽引している間は正しい牽引姿勢を保ち、故意に牽引重量を軽くしてはいけません。介護者は定期的に患者の衣類やシーツを交換して洗い、洗体し、あん摩を行います。特に骨格が突出している部位は褥瘡を予防します。牽引時間が長いと、患者はベッド上で小型ポータブルトイレを使うと言うこともあります。

 牽引期が終了後、患者は股関節の活動を強め、研磨する訓練を行います。患者は背臥位で助手が患者の上前腸骨棘をを圧して骨盤を固定し、医者は患側の膝関節と患側の下腿に手を置き、股関節と膝関節は90°にして股関節を軸に時計回りと反時計回りに回旋を各10回、毎日訓練を1回、3~4週続けます。

5.健康教育

 無菌性大腿骨頭壊死の修復が厳しい時は、大腿骨頭の陥落が進展することがあり、そうなると股関節の機能障害が出現します。医療従事者は患者と家族に本疾患のリスク、並びにその治癒過程の正しい知識を指導するという事を積極的に取り入れた治療をしなければいけません。十分に患者が積極的になり、患肢の生理機能を中心とした回復を導けば、順を追って、長期的に機能訓練が進んでいきます。

参考文献:无绪平 张天民,针刀医学临床研究,中国中医药出版社:2011.p286-302
     岩倉 博光 他,理学療法評価法,金原出版:1995.p81-82

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