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北京堂鍼灸伊東

大腰筋損傷の治療法

大腰筋損傷の治療法
目次

解剖

 大腰筋は腰椎全面の腹側に位置しており、起始は第12胸椎の椎体と椎間円板、全腰椎の肋骨突起と第12肋骨で、停止は大腿骨の小転子です。この筋肉の作用は股関節の屈曲と外旋です。神経支配はL2~4です。大腰筋の前は筋膜に覆われ、「大腰筋筋膜」と呼ばれ、その内縁は脊柱に停止し、外縁は腰方形筋の筋膜に連結しています。

病因病理

 慢性労作性損傷の多くは急性損傷後に続けて発症します。いかなる活動も皆、中枢神経の支配下で筋肉が協調して働くことで、運動が生まれ、以下の状況では容易に大腰筋損傷が引き起こされます。大腰筋損傷は、腰椎椎間板ヘルニアを引き起こす主な原因のひとつです。

1)心の準備が出来ていない状態で、突然または予期せぬ動作を行うと腰部脊柱後部の筋肉が収縮せず、大腰筋線維が収縮し、過剰な力が加わったり、身体重心の偏移が起こります。他の筋肉がバランスを取れずに、水腫や滲出などの一連の軟部組織損傷の症状が引き起こされます。

2)体が過度に疲れていたり、精神的な緊張がある中で労働作業や運動を行うと、大腰筋と他の筋肉との協調が取れずに、筋肉の損傷が引き起こされます。

3)一つの重い箱を空だと思うなど、客観的な見通しが不足して、腰を曲げた姿勢から起こして運ぶ時、大腰筋の準備が出来ていない状況で収縮して筋肉の損傷が引き起こされます。

4)慢性腰痛の患者、又は腰椎に先天的な奇形がある患者は、大腰筋の筋線維の病変により「興奮性」が高まり、軽微な刺激でも収縮が起こり、動作を行う際に大腰筋の損傷が起こるリスクが高いです。大腰筋が損傷後、筋肉の水腫や炎症物質の刺激で腰痛が起こります。その一方、滅菌性炎症物質は腹膜を刺激して、腹膜水腫が腸管を刺激して腹痛が起こります。臨床ではこれを「腰源性腹痛」と呼び、下痢などを引き起こします。更には腹腔を刺激して婦人科の炎症性症状を引き起こします。男性患者の中には、滅菌性炎症が陰部神経を刺激してEDを引き起こすこともあります。
慢性損傷の多くは急性損傷後に起こり、大腰筋が損傷することで癒着が起こり、筋肉は酸欠となり、冷える或いは労作性損傷の状況で、筋肉が水腫や痙攣が現れ、腰椎に側弯が生じることもあります。長期間、腰椎の力学的平衡が崩れ、腰椎の椎間板が反対側へ突き出て、下肢症状を引き起こします。

5)立位で体幹を軽度前傾した姿勢を長時間続ける状態(体幹を最大限前傾した姿勢は逆に大腰筋がゆるむ)は、この時、大腰筋と腰椎の脊柱起立筋は緊張して痙攣状態にあります。例えば腰部が長時間このような状態だと(鍼灸医が長時間、軽度前傾位で患者に鍼施術をする時など)容易に大腰筋の損傷が引き起こされます。

臨床表現

 大腰筋の損傷は臨床でよくみられます。腰部は胸部にあるような肋骨保護が無く、活動時に損傷しやすいです。大腰筋は腰椎前方の、主な力を受ける筋肉で、それ自体の労作性損傷以外で、腰椎後方の脊柱起立筋などの労作性損傷はアルロッド理論に基づき、痙攣が引き起こされます。それに基づいた特徴と大腰筋損傷の表現を以下に説明します。

1)大腰筋を損傷した時、腰部には明瞭な圧痛点は無く、一部の患者はトントンと叩くと痛みがあります。これは大腰筋は腰椎椎体の前側にあり、押圧の力が筋肉に達するのは難しいので、腰椎をトントンと叩くと、腫れて痙攣した筋肉に振動が伝わり痛みを生じるからです。

2)腰痛は、朝臥床している時に激しく、起床後は軽快します。疲労が蓄積した後に症状が増悪するなど、腰筋が労作性損傷するのと共通点があります。

3)腰椎の生理的カーブは多くのケースで真っすぐとなります。大腰筋の労作性損傷後に痙攣収縮が起こることで、生理的カーブの変化が生まれます。夜間に腰痛が発生した時、両手を重ねて腰部の下にあててあお向け(仰臥位)になると、腰痛がしばらく軽快することがあります。これは人為的に腰部を高くすることで、生理的前弯を形成します。つまり、腰椎の生理的カーブが真っすぐになる状態を変えると、腰痛が軽快するのです。

4)咳嗽、大便をするなど、腹圧が上がる状況で、腰痛の増悪が引き起こされます。大腰筋が損傷した時、腹圧が上がる状況は、大腰筋を押しているのと同じであり、軟部組織の圧痛メカニズムと類似した腰痛が引き起こされます。

5)大腰筋損傷は膝関節の痛みを引き起こします。この状況は臨床でとてもよくみられます。大腰筋の付着部が大腿骨の小転子であるため、労作性損傷時にその筋膜の癒着が股関節内転筋に伝わり、股関節内転筋の一部の線維が膝関節の内側にあるためです。

6)大腰筋を損傷すると腹痛、下痢、ED、早漏、慢性腹腔炎などの症状を引き起こすことがあります。

7)鼠径部の疼痛があります。大腰筋と腸骨筋を合わせて腸腰筋と呼びますが、2つの筋肉は共に大腿骨の小転子に付着しています。この2つの筋肉が準備なく、或いは準備が不十分な状況で運動をすると相互に摩擦が起こり、この2つの筋肉の筋膜は鼠径部で結節を形成し、痛みを産生します。

8)大腰筋を損傷すると、腰を後方に伸ばすと痛みを生じます。座位から起立する時に痛み、立位で軽度体幹前傾姿勢、及び両手で重い物を抱えると腰痛が起こります。

診断

臨床表現に基づき、損傷の病因病理を考察すると、正確な診断ができます。

治療

1.治療部位

腰椎には一つの生理的前弯の表現形式があり、弓弦理論に基づくと、この応力を受けるのはL1,L2,L5,S1、この箇所が弓弦結合部であり、上部がL1,L2で下部がL5,S1です。大腰筋の起始部は腰椎の肋骨突起根部で、テコの原理に基づき大腰筋の痙攣を無くします。これは肋骨突起根部の引張り力を無くせばよいのです。同側の棘突起上の引張り力を無くしさえすればよいです。弓弦理論とテコ理論に基づき、L1,L2,L5,S1の同側棘突起の傍にある痙攣、結節部位に刺針して緩めます。

2.操作

患者は腹臥位で、治療部位を露出して通常の消毒を行い、超微針刀を使用する際は、左の母指で針刀を押さえ、針刀を進め、まず分離し、次に固定する方法で結節を押さえます。右手で針刀を持ち、刃先を体の軸と平行にして結節を切ります。刺針深度は0.5cmです。左手の指の下に結節を感じたら針刀を抜きます。刺針部を綿球で1,2分押さえ、出血を防ぎます。上記の治療を3日に1回行います。

おわりに

 中国でも大腰筋について研究が進められているということがよく分かりました。北京堂は日本でも数少ない大腰筋を施術していますが、上記の病態や治療法は参考になる点も多いのではないでしょうか。
腹痛で大腰筋を治療、と言っても「?」という人も多いかと思いますが、難渋する腹痛の場合、その原因は大腰筋であるかもしれません。選択肢として知っているだけでも価値があると思います。

大腰筋下部治療ポイント

 上記の説明から、鼠径部の疼痛がある場合は、大腰筋と腸骨筋が合流している鼠経靭帯から下の区域が治療ポイントであることが分かります。
左図から分かるように、この区域は大腿骨頭の前側になります。腹臥位(うつ伏せ)で治療する時はできる限り大腿骨頭の前側を意識した治療が重要になるかと思います。

参考文献:胡超伟,超微针刀疗法,湖北科学技术出版社:2014

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